CLOSE
日本に遺る美しい建築を巡る紙上クルーズ
1934年に創設された福岡県最古のゴルフ場
アントニン・レーモンドが遺した戦後モダニズム建築を訪ねて
九州、福岡県の北東部。関門海峡に突き出た企救半島の大半を占めるのが北九州市の門司区である。
街の特徴は、門司港レトロに代表されるように、明治から大正にかけて作られた歴史的建造物が数多く保全されていること。
門司港駅舎が国の重要文化財に指定され、国土交通省の都市景観100選にも選ばれたレトロな風景が、大正ロマンを物語っている。
そんな門司区に創設された福岡県最古のゴルフ場「門司ゴルフ倶楽部」もまた、歴史的価値のあるスポットとして知られている。
のちに数々の名コースを設計することになる上田治氏が初めてコース設計を手がけ、1960（昭和35）年に完成した2代目クラブハウスは、日本建築の近代化に大きな影響を与えた建築家、アントニン・レーモンド氏が設計。戦後モダニズム建築の重要な建築作品として、国の登録有形文化財にも登録されている。
創建から半世紀以上が経過した今も多くの人々に親しまれている、後世に継承すべき建造美の魅力に迫ってみたい。
現在のクラブハウスは、2代目となる。初代は、かや葺き屋根や英国コテージ風という特徴があったが、コテージ風の趣きは2代目にも踏襲されている。設計を依頼する建築家として白羽の矢が立ったのが、フランク・ロイド・ライト氏とともに旧帝国ホテルの設計にも携わっていたアントニン・レーモンド氏だった。建物の外観は、杉板の木目が鮮やかに残るコンクリート打ち放しの構造体と、切妻型の赤茶色の塗装を施した屋根というシンプルなファサードデザインが特徴的。玄関ロビーの中央に階段がレイアウトされており、訪れた人々は、レーモンド夫人がデザインしたシャンデリアに誘われるようにして2階へと導かれる。その先に広がるのが、開放的な談話室とダイニングルーム、そしてレストラン。経済界の面々の社交場でもあったため、あえて仕切りを設けずに開放感を追求したのだという。そんな談話室の中央でひときわ存在感を放っているのが、楕円形の囲炉裏風暖炉。その周囲を囲む作りつけの椅子に座って天井へと視線を移せば、杉の丸太材による構造がそのまま露出した天井仕上げの美しさを目の当たりにできる。
そして、レガシーとなる。名建築としての倶楽部ハウス。
全国初の「国の登録有形文化財」「BELCA賞ロングライフ部門」「日本建築家協会25年賞受賞」の栄誉
1998（平成10）年、第8回BELCA賞ロングライフ部門受賞
長期にわたって適切な維持保全の実施や、優れた改修を実施するなどした既存の建築物のうち、特に優秀なものを選ぶBELCA賞を受賞。建築物のロングライフを考慮した適切な設計のもとに建築され、長年にわたり継続的に優良な維持保全を実施した建築物で、なおかつ築後20年以上が経過した建築物を対象としたロングライフ部門での受賞となった。
2013（平成25）年、2012年度JIA（日本建築家協会）25年賞受賞
「長く地域の環境に貢献し、風雪に耐えて美しく維持され、社会に対して建築の意義を語りかけてきた建築物」を表彰する、日本建築家協会（JIA）による「JIA25年賞」を受賞。華美でなくシンプルな佇まいに経年によって獲得された格式、そして地域に根差し生き続ける建築の文化的側面が評価ポイントとなった。
2014（平成26）年、国の登録有形文化財に登録
工法として本来見せるべきものではなかった全ての構造材を意匠材とし、かつ素材がもつ特徴や機能性をデザインとして表現。さらに鉄筋コンクリートという西洋の建築手法に日本の伝統的手法である木造や障子を用いることで、モダニズム建築の中に「和」の手法を取り入れたことが、「戦後モダニズム建築の重要な建築作品」として評価されることとなった。
アントニン・レーモンド
1919年（大正 8 年）旧帝国ホテル設計監理のため、フランク・ロイド・ライトと共に来日したアントニン・レーモンドは1921 年（大正10 年）、日本に設計事務所を開設。それがレーモンド設計事務所のはじまりです。 戦前・戦後、日本に永く滞在し多くの作品を手がけました。その設計哲学を受け継いだレーモンド設計事務所は、今も常に独創的な作品を発表し続けています。
門司ゴルフ倶楽部
Moji Golf Club
