2050年の開園100年目に向け、「ビジョン2050」を策定。
動物たちの観覧を通じて生態系の恩恵や地球環境について学ぶことができる動物園を目指しています。
人間だけでなく、数多くの生物が共存する地球。しかし温暖化や森林破壊などの影響によって、毎年4万種もの生物が絶滅しているともいわれています。こうした地球環境の現状を人々に伝え、学びにつなげようと取り組んでいるのが、北海道札幌市にある「札幌市円山動物園」です。1951年に開園した同園は、来たる2050年の開園100周年を見据え、基本方針となる「ビジョン2050」を策定。「命をつなぎ 未来を想い 心を育む動物園」を基本理念としています。
「私たちがこうして生きられるのは、地球上の多くの生き物のおかげだということを皆さんはあまり意識することがないと思います。実際は、食べ物があるのも、空気があるのも、生態系を形成している生き物たちの恩恵です。そういったことを多くの方に感じていただくために、生物の調査・研究をし、皆さんに楽しんでもらいながら環境や生物多様性といった保全の大切さを伝えていくことが重要になります」と、ビジョン2050の骨格について飼育展示課の朝倉卓也さんは語ります。そしてもう一つ、円山動物園の方針として「動物福祉を取組みの根幹に置いています」と朝倉さん。動物福祉とは、動物の精神的・肉体的両方の状態とのこと。「餌や病気の治療はもちろんですが、ゾウだったらあの長い鼻を使って餌を見つけさせたり、野生下でよく歩き回る動物ならしっかり歩かせたり、そういった動物たちが野生で本来備えている能力をしっかり発揮させる工夫をすること。それこそ、私たちの考える動物福祉の意義になります。当園に限らずこれからの動物園は、動物福祉の向上が課題になるでしょう」(朝倉さん)。
従来は麻酔が必要になるなど
難しかった動物たちの診察も、
トレーニングによって改善中です。
動物たちの心身の負担を軽減しながら
健康維持ができるようになりつつあります。
飼育展示課
飼育展示一担当係長
朝倉 卓也さん
動物福祉の向上を目指して、動物たちが野生に近いかたちで生きていけるよう工夫を凝らしているのが円山動物園の特徴です。
そのための厩舎として、ゾウ舎やホッキョクグマ館などを新設。それぞれのエリアで生き生きと暮らす動物たちの姿を見ることができます。
ゾウ舎
2019年より一般公開されている新しいゾウ舎は、ゆったりとした広さの屋外放飼場と温度・湿度などが管理された屋内放飼場の2エリアに分かれており、4頭のアジアゾウが暮らしています(2020年11月現在)。
動物福祉という観点から、どのような環境がアジアゾウにふさわしいかを考え、施設内の随所に様々な工夫が施されています。例えば、屋外だけでなく国内で初めて屋内プールを設置。冬の間は屋外に出られないゾウたちが、季節を問わず水浴びできるよう配慮しています。また、屋内外の放飼場の床材には砂を採用。3〜4トンというゾウの体重を支える足への負担を抑えながら、歩行に負荷がかかることで運動不足の解消にもつながっています。この砂の中に餌を埋めておけば、自分で餌を見つけて掘り起こすなど本来の能力を発揮させることにもつながります。散水装置も備わっており、砂の中に餌の食べ残しや排せつ物が残っていても、水をかけて砂を撹拌することにより有機分解を進め、砂を衛生的に保てます。
こちらのゾウ舎ではゾウと人の安全に配慮し、飼育員が柵を隔てた状態でゾウと接する準間接飼育を導入。また、野生では1日17時間も食べ物を探して歩くというゾウの生態を再現させるため、餌を施設内のあらゆる箇所に用意し、タイマーによって提供時間を制御しています。
屋外観覧施設では、敷地勾配、放飼場のレベル差を利用して、様々な角度からゾウの観覧が可能です。さらに屋内観覧施設には、ゾウの水浴びの様子をガラス越しに観察できるゾーンや、教育プログラムを実施するレクチャールームを設置。ゾウ本来の姿を観察し、わかりやすく学ぶことができるよう工夫されています。
ホッキョクグマ館
2018年にオープンしたホッキョクグマ館は、アメリカの動物園水族館協会やカナダマニトバ州のホッキョクグマの施設基準に沿った獣舎で、北極圏に住むホッキョクグマと、本来ホッキョクグマの主食であるアザラシを展示。北極圏の生態系の一部を再現することで、生息地のことや環境について学べるようになっています。
ホッキョクグマとアザラシを様々な角度から観察できるよう、外放飼場を観覧できるエリアや、水中から観覧できるエリアなど、多くのビューポイントを設けているのがホッキョクグマ館の特徴です。中でも見どころは、至近距離で動物たちの泳ぐ姿が見られる水中トンネル。別々のプールに分けられたホッキョクグマとアザラシが、まるで一緒に泳いでいるような姿を見ることができます。
円山動物園ではほかにも、オオワシやイヌワシなどの猛きん舎、カンガルー館、エゾシカ・オオカミ舎など、およそ160種類の動物たちが飼育されています。 イベントも豊富で、動物たちの行動を間近で見たり、飼育員による詳しい解説を聞いたりできる、様々な「みんなのドキドキ体験」も実施。命の大切さや動物の生態、 それらを取り巻く環境と私たちとのつながりを楽しみながら学ぶことができます。ぜひ一度、足を運んでみてください。
※新型コロナウイルス感染が拡大傾向にあることを踏まえ、11/4より屋内でのドキドキ体験を休止しています。